最近、デジタルトランスフォーメーションに注目が集まっています。あなたも社内で経営陣がデジタルトランスフォーメーションの重要性について口にしている様子を見聞きしたこともあるのではないでしょうか。 一方でデジタルトランスフォーメーションにどのように取り組めばいいのかわからないという声もあります。そこで今回は、デジタルトランスフォーメーションの事例をご紹介します。

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?

デジタルトランスフォーメーションとは、テクノロジーによってビジネスモデルを大きく変えることと定義されます。近年ではデジタルディスタラプターと呼ばれる、デジタルによって既存のビジネスモデルを大きく変える企業が誕生しています。例えばFacebookはその一つです。 Facebookは、それまで匿名が主流だった日本のインターネット世界に実名を公表する文化を築き上げました。その結果、インターネット上のつながりがバーチャルからリアルなものになり、仕事のやりとりもFacebook上で実現できるようになったのです。 現在では電話やEメールではなく、Facebookメッセンジャーで仕事のやり取りをする方も多いのではないでしょうか。このように、デジタルトランスフォーメーションとは、既存のビジネスや仕組みを根本的に変えることを意味しています。

デジタルトランスフォーメーションの現状と課題

日本でもデジタルトランスフォーメーションは、総務省や経産省を中心に国を挙げて取り組むべき課題とされています。これだけデジタルトランスフォーメーションという言葉がもてはやされている中、日本の現状と課題はどのような状況なのでしょうか。

日本におけるデジタルトランスフォーメーションの現状

経産省の所管団体である情報処理推進機構(IPA)では、デジタルトランスフォーメーションの「自己診断チェックシート」を配布し、自己診断結果を集計して公表しています。「自己診断チェックシート」では、デジタルトランスフォーメーションの成熟度レベルを0~5の6段階で示しています。 【DX成熟度レベル】 0:未着手 1:一部での散発的実施 2:一部での戦略的実施 3:全社戦略に基づく部門横断的推進 4:全社戦略に基づく持続的実施 5:グローバル市場におけるデジタル企業 2020年版の「DX推進指標 自己診断結果 分析レポート」によれば、自己診断を提出した約300社の企業のうち、未着手のレベル0が30.5%、レベル1~2が38%、レベル2~3が23%、レベル3~4が7.9%、レベル4以上が0.7%でした。日本では少しずつDXが進んでいるものの、まだまだロールモデルと呼ばれるような企業が少ない現状です。

日本におけるデジタルトランスフォーメーションの課題

経産省はこうした日本の現状に対して、大きな危機感を抱いています。先の自己診断結果をまとめた「DXレポート2」では、95%の企業がDXに全く取り組んでいないか取り組み始めた段階であり、先進企業とそれ以外の企業ではDXの取り組みに大きな格差があることを指摘しました。また、DXは企業文化を変える取り組みであると定義したうえで、本気でDXに取り組む企業がまだまだ少ないことへの危機感を表現しています。 世界的にデジタルトランスフォーメーションの流れが避けられない中、日本ではまだデジタルトランスフォーメーションに着手している企業が少なく、このままでは世界に取り残されてしまうかもしれません。

デジタルトランスフォーメーションのメリットとは?

企業がデジタルトランスフォーメーションに着手しない理由の一つとして、デジタルトランスフォーメーションのメリットが分からないということが挙げられます。 デジタルトランスフォーメーションのメリットとはどのようなものなのでしょうか。

プロセスの置き換えによる業務効率化

デジタルトランスフォーメーションの大きなメリットの一つが業務効率化です。デジタルトランスフォーメーションは、単にデジタルツールを導入するのではなく、デジタルによりビジネスモデルや業務そのものを変革する取り組みです。例えば、メーカーの工場であれば今までは多くの作業員が組み立てや加工を行ってきました。しかし、工場がデジタルトランスフォーメーションした場合、製造ラインのオートメーション化により、作業員が不要になります。また、データにより需要予測が可能となり、これまでのように在庫を多く抱える必要もなくなるでしょう。つまり、人件費や在庫コストが削減されるのです。このようにデジタルトランスフォーメーションは、業務プロセスを人からデジタルに置き換えられるようになるほか、データを活用して業務のあり方そのものを変えることで、業務効率化を実現します。

組織のブラックボックスの見える化

もう一つのデジタルトランスフォーメーションのメリットは、ブラックボックスの見える化です。企業では、組織活動の中で情報が見えづらくなっている部分が多く存在しています。例えば、組織の生産性に影響を及ぼす社員のモチベーションの状態は、これまで可視化する方法がありませんでした。しかし、デジタルトランスフォーメーションでは、モチベーションツールを使用すれば、従業員のモチベーションの状態をほぼリアルタイムで見える化できます。また、オフィスの空調管理も人が出入りするエリアや人が少ない時間帯のデータを集めてリアルタイムで見える化すれば、空調コストを削減できるようになるでしょう。このように、デジタルトランスフォーメーションに取り組めば、これまで見えていなかった事実が明らかになり、コスト削減や組織の効率化を実現できるのです。

DXを支えるテクノロジー

デジタルトランスフォーメーションを実現するデジタル技術にはいくつか代表的なものがあります。特に基本的なテクノロジーについてご紹介します。

ビッグデータ解析

最も汎用的で、どのビジネスにも必要とされるのがビッグデータの解析技術です。ビッグデータとは、総務省の定義によれば「デジタル化の更なる進展やネットワークの高度化、また、スマートフォンやセンサー等IoT関連機器の小型化・低コスト化によるIoTの進展により、スマートフォン等を通じた位置情報や行動履歴、インターネットやテレビでの視聴・消費行動等に関する情報、また小型化したセンサー等から得られる膨大なデータ」とされています。つまり、様々な端末から得られる大量のデータのことです。膨大なデータは、これまで収集と解析が難しい状況でした。しかし、インターネットとスマートフォンの普及により、簡単にデータを入手できるようになりました。加えてクラウドの発達により、誰もが高性能な計算用サーバーをインターネットを介して利用できるようになったため、データ解析が容易になったのです。ビッグデータ解析技術により、人々の行動傾向や予測が可能になりました。

RPA

RPAとは、Robotics Process Automationの略でロボットによる業務効率化と定義されます。ロボットといっても、物理的なロボットではなく、一般的にはPC上などで動くプログラムとしてのロボットを意味しています。RPAを導入すると、それまで人が担ってきた単純作業をロボットに置き換えることができます。RPAが対応する作業は、キーボードやマウスなどのPC操作の自動化、蓄積されたデータの整理や分析、システム間のデータ連携など、PC上の比較的単純な作業です。総務省の報告によると、例えば、大手都市銀行では煩雑な事務作業をRPAに置き換えたことで年間で8,000時間の労働時間削減になったそうです。このようにRPAは、人が担っていた作業を自動化する技術として注目されています。 では次からは、実際のデジタルトランスフォーメーション事例を見ていきましょう。

デリバリー専門店を実現したUber Eats

デリバリー専門店を実現したUber Eats ではデジタルトランスフォーメーションの事例として他にはどのようなものがあるのでしょうか。最初の事例としてUber Eatsを紹介します。 Uber Eatsは、都市部を中心にフードデリバリーサービスを提供しています。配達依頼の方法はとても簡単です。まずユーザーがデリバリーしてもらいたいものをアプリで選びます。次にアプリからオーダーを受け取った飲食店が、近くにいる配達員にアプリを使って配達を依頼し、最後に配達依頼をアプリで受け取った配達員が配達するものを飲食店にとりにいき、ユーザーの自宅に訪問して配達を完了します。 Uber Eatsは2つの意味でデジタルトランスフォーメーションを実現しています。まず、配達業者を一般人にしたことです。誰でも一度配達員として登録すれば、空いている時間を活用して収入を得ることができます。配達員の収入は配達1件あたり数百円になるそうです。Uber Eatsは今では副業で収入を得たい、移動時間を収入に変えたいという方に人気の仕事になっています。 そして2つ目は、これまでデリバリーに対応していなかった飲食店をデリバリー対応にしたことです。さらには、コロナ禍での需要の高まりによって、デリバリー専門店も急増しました。コロナの長期化もあり、今では新旧問わず多くの店がデリバリーサービスを定番化しています。

ネットワーク効果をオンラインで実現したメルカリ

次にご紹介したいのがメルカリです。いまではメルカリを使って個人間で売買することが当たり前になっています。個人間売買は以前からヤフオク!のような、インターネットオークションが担ってきました。しかしこれだけメルカリが流行っているのはなぜなのでしょうか。一体メルカリの何が優れているのでしょうか。 メルカリがこれまでの個人間売買の仕組みを変えた大きなポイントが2つあります。 1つ目は発送方法の敷居を大きく下げたことです。ユーザーは「メルカリ便」を活用すれば、コンビニでラベルを発行して簡単に発送することができます。しかも従来の個人間売買で必要だった「ユーザー間の個人情報のやり取り」を不要にしたことで、個人情報漏洩の心配をなくしたことがサービスの信頼性を高めました。メルカリは、ユーザー同士で安心して売買できる場をつくることに成功したのです。 もう1つのポイントは、これまで入札形式が中心だった個人間売買に固定価格制を導入したことです。値段が吊り上がっていくオークション制ではなく、ユーザーが売りたいものを決まった価格で販売する仕組みを取り入れました。同時に本やDVDであればバーコードを読み取って出品でき、相場価格で販売できるように自動的に設定が行われます。メルカリは出品する手間を省くことで出品のしやすさを大きく向上させました。こうした信頼性と簡単さにより、メルカリは個人間売買の取引件数を大きく伸ばすことに成功したのです。

部品発注の納期短縮を実現したミスミ

デジタルトランスフォーメーションはBtoCだけの話だけではありません。BtoBでもデジタルトランスフォーメーションが行われています。特に有名な事例として機械部品商社のミスミの事例が挙げられます。 ミスミは従来から機械部品のカタログ販売に取り組んできました。以前の機械部品業界は発注を受けて部品をカスタマイズするビジネスモデルが主流でした。そこでミスミは部品を標準化することで短納期かつ大量発注を実現可能にしたのです。 そのミスミが新たなサービスとして立ち上げたのが「meviy(メヴィー)」です。「meviy」は発注者が設計データをアップロードするだけでAIが自動的に納期と価格を即時回答するサービスです。しかもデジタルデータを即時加工するサービスが含まれており、設計データによっては即日発送することが可能です。 「meviy」を使えば、カスタマイズが必要な部品も3D CADデータがあれば即時加工することができるようになりました。これにより例えば開発部門のプロトタイプ制作も従来かかっていた時間から90%以上も時間を削減することに成功しました。ミスミは、部品加工のビジネスモデルを大きく変えているのです。

1杯のコーヒーを安否確認に変えたネスレ

最後にアナログのビジネスモデルを展開していた企業がデジタルトランスフォーメーションにより新たなビジネスモデルを構築した事例をご紹介します。 食品メーカー大手のネスレ日本は、ネスカフェブランドを中心にコーヒーを提供してきました。従来はコーヒーの粉を販売するビジネスモデルでした。そこに新たなに登場したのがネスレのコーヒーマシンです。ネスレのコーヒーマシン「バリスタ・i(アイ)」は、単にコーヒーをつくる機械ではありません。専用アプリを使用すれば、コーヒーを飲むたびにポイントがたまります。 さらにコーヒーマシンの起動状態を家族などに通知することも可能です。この通知機能により、例えば遠方にいる家族がコーヒーを飲んでいるかどうか判断して安否を確認することができます。また、ネスレ側はコーヒーマシンを通じてユーザーがコーヒーを飲む頻度やコーヒーの濃さなどの味の好みをデータとして取得することもできるのです。 ネスレはこうしたデータを今後、健康管理サービスなどに役立てていくことも検討しています。このように、ネスレはコーヒーを売るビジネスから、人々に健康と安心を提供するビジネスへと変貌を遂げつつあるのです。 今回はデジタルトランスフォーメーションの事例を紹介してきました。どの事例もすごく大きな取り組みではなく、小さな工夫や改善が大きな変革へとつながっています。デジタルトランスフォーメーションは特別なことではありません。ちょっとした課題や悩みをデジタルで解決するだけでもデジタルトランスフォーメーションになるかもしれません。ぜひみなさんも取り組んでみてください。